2021/03/04 14:04
最近ずっと、「シンプル」というものについて考えています。
それは、この言葉がいまの時代、とてもよく使われるようになっているから。
でも、よく使われるようになってはいるけれど、
私の考える「シンプル」とは違った感じで
この言葉が使われている場合もあります。
このブログはパトラジェムのブログなので、
私が考える「シンプル」というものを話してみます。
私は、すでにお話ししてきた通り、
お洋服にたずさわる仕事を長くしてきました。
その中で、本当にたくさんの、そしていろんな種類のお洋服を見てきました。
ディオールやジバンシー、シャネルのドレスから
ザラやH&Mまで、ほんっとうにたくさんのお洋服を。
そして自分でもたくさんの服を着て体験してきました。
服は「着るもの」だから、自分が体験してみないとわからないし。
(まあ、何より「好き」だったからなんですけれども)
そして、たくさんの服に触れたからこそ、
最終的に自分の服について戻ってきたところがあるように感じています。
それが私にとっての「シンプル」。
でも、そのシンプルっていうのは
ただ、飾りを排したものであるとか
色が自然の色だからいいとか、単純にそういうことではなくって。
いっぱい「モノ」を見てきたからこそ、
それを作っているブランドやクリエイターの考えが
その「モノ」の向こうに見える。
その「シンプル」がなぜ、そこに落ち着いたのか、が見える。
このパーカーの丈がなぜ5センチ長くはなかったのか。
このスカートのタックは、どうしてこの数なのか。
このブラウスの素材はなぜ、これより薄くも厚くもないのか。
この素材はなぜ、シルクとコットンを混紡したのか。
その答えが、見えるようになってきました。
そして、そんな「シンプル」を極めたジュエリーを作りたいと思いました。
こんなに長く服のことをやってきて、
こうしてディレクションしていくのがなぜか服ではなくジュエリーということに
自分でも驚いていますが、
きっとこの「シンプルの向こう」が見える目、
そして写真家として長く草木やお花を愛で、エネルギーを写してきた目を
小さい頃から好きだった「色のついた宝石」をどう活かすかに
使っていく、ということだったのだなあ、と感じています。
私がやりたいことは、「石」とそれを「着ける人」が
ハーモニーになるようなこと。
そのために、
石の魅力を少しも邪魔することのない「シンプルさ」でできたジュエリーを
作っていきたい。
それには、
腕の太さ
素材(金属)の印象の違い
テクスチャ(仕上げの風合い)
が、石とハーモニーになっていることがなにより大切です。
そして、それらを邪魔しないデザインを
ほんの少しだけ、考える。
そんな感じのものが、
私の考える「シンプル」です。
シンプル、って人生にも似ていると思うの。
いっぱいお金があったり
有名になったり
みんなが羨ましがるようなポジションにいたり
それが直結で幸せ、ではないことに
多くの人が気づいてきていると思います。
私も含め。
だって、そんなものはひとつも、
死ぬときには持っていけない。
今日、昼下がりに丁寧にお茶を淹れようという気持ちになること。
気に入ったマグカップのその絵をいとしく眺める余裕があること。
奮発して買った家着の心地よさにほおずりできること。
そんな小さなことを感じる力があることが
「幸せ」なんだなー、と感じています。
そんな、小さいけれども
胸があったかくなるようなジュエリーを作りたい、と思って
色々試行錯誤しておりまして。
このたび、パトラジェムの第一号が出来上がりました。
選んだ石は大好きなモンタナサファイア。
モンタナサファイアという石の魅力は、
「なに色」とはっきり言えないような色の奥深さ。
派手ではないけれど、単調ではない、奥行きのある色。
でも、それがなに色なのかを知ろうと手を伸ばすと
ふっとその色を隠してしまうような儚さみたいなものも感じる。
なんだかそれは、「幸せ」というものにも似ているような・・・
そんな石の表情が、とても美しいと私は感じています。
そこで、この石の雰囲気を100パーセント生かせるようにと
提携の作家さんにディレクションをお願いしました。
ああでもない、こうでもないと何回も打ち合わせを重ね、
控えめながら美しいサファイアの美しさをひとつも邪魔しないように、
丁寧に丁寧に、1ミリの何十分の一の太さや厚み、金属の色、仕上げの表情にもこだわったリングです。
このリングは、世に出す前に
パトラジェムの対面イベントにいらしてくださっている方に見初められましたが
私が感じるそのかたの「たたずまい」に
とてもリンクしていると感じたジュエリーでした。
控えめながら、
彼女の周りには他人を気遣う気配りが、見えないように
幾重にもしつらえられている。
そんな美しい生き方と
このリングがとてもマッチしていて、本当に嬉しくなりました。
生きている中には誰でもいろんなことがあって。
なんだか白黒つけたくなるし
なにか正解を追い求めたくなるけれど。
自分の気持ちに沿っているなら、
誰かの賛同を得なくたっていい。
きちんと何色、と呼べる色でなくたっていい。
誰にも当てはまる正解、なんてない。
ただ、自分の心だけが知っている正解を
探していくのが人生。
この、何色ともつかないモンタナサファイアと、パトラジェム第一号のリングは、
そんなメッセージをくれている気がします。
(モンタナサファイアのリングは
今後も制作していく予定です。
どうぞお楽しみに!)